さよならキティちゃん

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土曜日、ふと走りたい魂がうずき、小樽まで爆走した。
今、アメリカの空母キティホークさんが寄港しているらしく、街中の道は酷い渋滞。

商工会議所が率先して手引きしているようで
その辺の店には商魂たくましい「寄港歓迎」ステッカーが張られている。
明らかに軍人風味の屈強なアメリカンが
ソフトクリーム片手にコーラをぐび飲みしながら歩いてる。
彼らにとって小樽寄港は絶好の観光チャンスに違いない。
ススキノで遊ぶのを楽しみにしている輩もおるだろう。

親子づれがベビーカー押して勝内埠頭に向かっている。
首からは小さなデジタルカメラをぶら下げて。
空母のことはようわからんが、えらい騒ぎである。
そこでこの、人が騒ぐ空母なるものをこの目で見むとぞ思い、
車を駐車場において、あてどなく海に歩いてみた。

船の先っぽらしきものを目印に、かなり歩いてフェリーターミナルに来た。
そこにはイージス艦みたいなのが留まっていて、奥に親玉キティホークが見える。
ぬぉ、大きい。
すでにここまで歩いてくる間に、港に舞い飛ぶあやしげな砂にまみれた。
開き直って正面まで、さらに歩くことにした。

歩くことしばらく、やっと一般見学の列を見つけた。
「63」と書かれた巨大な鉄塊の上には、
豆みたいに見える戦闘機がびっちり並んでいる。
この空母は、アメリカ海軍で現役最古のものだという。
ベトナム戦争や湾岸戦争にも出動し、1998年に日本にやってきたという。

鉄の塊は何を見てきたのか。
どこかの山奥で採れた鉄鉱石が、
軍用船となり、数々の戦地に赴く中で、何人の生死と関わってきたのか。
そして何人がその甲板から飛び立って帰ってこなかったのか。
恋の町小樽でのんびり眺めている私には、関係のない話だけれど、
ただの巨大な船みたいな顔をして、これはまぎれも無く戦争グッズである。

上を見たら市民が、アホみたいにピースして甲板で写真を撮っていた。
日本は平和だ。軍艦の上でピースしてても、撃たれて死ぬことはない。
くだらぬポエムなんか書いとらんと、今からこの軍艦に乗って戦争に行けぃ、
と言われることもない。
警察に厳重に守られたフェンスの向こうに、寂しいデモ行進が見えた。
『KITTY HAWK GO HOME」と書いた、小さなプラカードを持ち、小さな拡声器で叫んでいる。

それを、道行く人々は、不思議そうに見ていた。
結論からすれば、むなしく珍妙な行為かもしれないが、
全員が甲板でピースしているよりは良いかもしれぬ。
賛成と反対、両方があって、初めてバランスがとれるのだ。

キティという名前には、ドブネズミのような灰色より、
可愛い赤と白がよく似合う。
でもこの船も、2008年には退役するという。もう、二度と会うことはないだろう。
さよなら、キティちゃん。
今度この美しいアジアに来るときは、爆撃機ではなく、人々の幸せを満載する温かい船におなりよ。

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