月夜のぐれまや

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*朝家で書いたのを会社でこそり投稿。

昨日、Z業(残業ともいう)をしていた。
9時半ぐらいに自転車で帰った。

毎朝NHKの天気予報を見る。
昨日の朝は、
「翌日から天気が崩れますので、月見は今日のうちにどうぞ」と
さわやかアナウンサーが言っていた。

だから、夜の帰り道を楽しみに
最近、日頃入れていないコンタクトレンズを装着して
昼間から楽しみにしていたのだ。

そして予報の通り、昨日の月はすごかった。
洗いたての5円玉みたいで。
いい気分で自転車をこぎながら、
私はひとり月を見ていた。

すると、真っ暗な裏道の
白いセンターラインに黒い物影が。
月明かりしかないのでよく見えないが、
そこだけなんか黒い。
物体は表面に毛が生えていて、しましまのような気配である。
そしてけっこう大きく丸い。
ぬぉ、これはもしかしてぬこですか。

ぬこという生き物は、大概においてすばしっこく、
野生のものともなると、人間に警戒心を持っている。
なのにその物影は、私が自転車で近寄っても動く気配がない。
10センチぐらいに接近しても動かない。

しかし、警戒心を持ったぬこはしばし凶暴である。
変にさわると
だいたいかっちゃかれる(※北海道弁)のがオチである。

そこでまず足でちょいちょいと触ってみた。
けだるそうにこっちを見る。
怪我をしているのかと思ったが、そうではなく、
どこを触ってもいやがらない。
ただ、じっと固まっている。

その時、道の遠くに、トラックのライトが見えた。
そこで急いで、自転車を置いて、
その、大きなしまぬこを移動することにした。
両手でしまぬこを持ち上げると米袋のようにずっしりと重く、
その目は糸のように細く。

抵抗もせず道の端っこに移動されたが、
そこでもうずくまって一向に動かない。

ほっといてくれ、と言っているのだろうが、
真っ暗な道ゆえに、黒いしまぬこは、
スピードを出した車には見えそうにない。
これでは、轢かれてしまうと思い、
再度、そばにあった市営住宅の芝生と
道路を仕切る低い塀の上にぬこを抱き上げて、設置した。

あんた、変なところにおらんと、
そこにおりなされ。
車に轢かれたら、死ぬんやで。
痛いんやで。

説いて聞かせると、ぬこは私をじっと見ていた。
携帯で写真を撮ると「ぷしー」と
小声で警戒音を出した。
その首には首輪と
金色に輝くすずがついてた。

よく、ぬこは死ぬるとき、どこかでひっそり死ぬというが、
このしまぬこは、死に場所でも探していたんだろうか。
ただの迷子とは感じなかったのだ。

お前が死ぬる覚悟なら、仕方ないけれども、
迷子なら、ちゃんと帰りなされ。
ぬこは言葉より、テレパシーを理解するというので、
立ち去り際に、振り返ってへんな気を送った。
余計な世話だが、あのぬこは、
もう無事に家なり穴なりの定位置に帰れただろうか。我は心配でならぬよ。

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